水素エネルギー

 水素は水からできて水に戻りますなどのイメージCMもあり、水素エネルギーに関する関心が高まっています。

 純粋な水素は燃焼しても水しか発生しないクリーンなエネルギーです。水(H2O)は水素(H2)と酸素(O2)の化合物なので、水から水素は作れます。中学2年の理科で習い、実際に実験も行うので、覚えている方も多いと思います。ついでに理科の話をしますと、周期表(文科省は「一家に1枚元素周期表」を推奨)の1番目の元素であり、「水兵リーベ・・・」と覚えた経験がある方もいらっしゃると思います。つまり原子量が最も小さいので、単位重さ当たりのエネルギー量が最も優れています。燃焼させる際もそうですが、電気エネルギーとして取り出す際も有利です。ところが、気体なので体積当たりのエネルギーが極めて低くなります。ニッケル水素電池は水素吸蔵合金というものを用いて、小さな体積の中に大量の水素を閉じ込めています。折角小さくできたのに、水素吸蔵合金が重いため質量重さ当たりのエネルギーがスポイルされてしまいますので、一筋縄ではいきません。

 燃料電池は1960年代のジェミニ及びアポロ宇宙船に既に搭載(液体水素を利用)されており、アポロに搭載されたものと同型のものが、ワシントンDCにあるスミソニアン航空宇宙博物館に展示されているそうです (博物館を何度か訪れたことはありますが宇宙船に気を取られていたのか記憶にない) 。日本ではオイルショックの経験を踏まえてエネルギーの安定供給のために1978年(丁度その頃、私は大学生で電池の勉強をしていた)に立ち上げられたプロジェクト「ムーンライト計画」で実用化が検討され、成果の一つとして挙げられています。

 水素は水の電気分解で容易に作れますが、高くて経済的には成り立ちません。

 では、水素はどうやって作るのかというと天然ガスにも含まれており、バイプロダクトとして水素を集める方法があります。家庭用の燃料電池(エネファーム等)は都市ガスに含まれているメタン(CH4)ガスを改質して水素リッチガスを作り、燃料電池で発電しています。

 決して簡単という訳ではありませんが、太陽光を利用して水から水素を作り出す方法があります。1967年に発見された「本多・藤島効果」と呼ばれる技術です。ノーベル賞候補にもなっており、電気化学分野では非常に有名な技術です。水溶液に浸漬した酸化チタンの電極に太陽光を当てると電極面で酸素が発生し、対極の白金電極からは水素が発生し、しかも電気も得られるという夢の様な発明です。当時は水素ガスを得ることよりも電気が取り出されることに注目されていた様に思います。私の卒論や修論もこれに類するもので、半導体電極に光を当てて電気を得るという湿式太陽電池と呼ばれるものを研究していました。紫外線が必要な主反応は、現時点で産業的なレベルで電池や水素ガス生成には利用されてはおりませんが、光触媒を利用した防汚コーティングとして建築資材を中心に広く利用されています。

 太陽光以外に外部からエネルギーを与えることなく、水から水素を作り出せる可能性のある技術であり、当社でも実用化の可能性を検討したいと考えております。水素エネルギーは燃料電池(発電装置)だけでなく、水素エンジンにも使えますし、水素燃焼発電にも発展できる可能性を秘めています。

 現行の燃料電池には白金触媒が必要であり、代替品が開発されない限り幅広い普及は困難です。過日、DNP等が白金代替品の研究・開発を行っていることを発表しました。お題目を唱えるだけでなく、この様な具体的な課題に直結した問題解決のために限りある研究資源が登用されて行くことを期待しています。

 白金触媒を使用した燃料電池は稼働率を上げるべきであり、グリッドに流す方がより効率的であると思います。水素エネルギーで発電した電気でEVに充電する様な社会にシフトしていけば、低炭素社会の実現にグッと近づくのではないでしょうか。

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