乾電池

 少し前までは身近に乾電池が存在しました。今はテレビやエアコン等のリモコンで使われる程度で、乾電池を使う懐中電灯も少なくなってきました。私が学生の頃は一般に馴染みのある電池というと乾電池か自動車の始動用鉛蓄電池位でした。もちろん、その頃から色々な電池はありました。

 乾電池は英語でも”Dry Cell(Battery)”と呼ばれ、最近話題となっている全固体体電池の様に液体が使われていないかに思われます。ところが、機器に入れっぱなしで放っておくと乾電池なのに漏液することがあります。「乾」というと液がないというイメージしてしますが、ちゃんと液は入っています。塩化亜鉛(ZnCl)溶液という弱酸性の液体が二酸化マンガン正極(プラス極)や紙製セパレータの中に入っています。初期の電池が多くの液体を使用しており、それらと区別するために乾電池と命名されたのではないかと思います。

 乾電池のプラス極(正極)には二酸化マンガンという材料が使われています。金属ではないので、電気を流しにくくアセチレンブラックというアセチレンを分解して製造した煤の様な炭素の微粉末を導電(助)剤として混合しています。成型し易い様に糊の様なものも加えられます。

 当時の平井研究室では二酸化マンガンの物性研究も盛んでした。先生曰く「昔の乾電池工場の現場の人は二酸化マンガンを舌で舐めて品質を確認していた。舌に吸い付くものがいい材料である。」とのことでしたが、物性からこの手法は正しいそうです。特定化学物質を舐めるなどという行為は今では考えられません。

 では、乾電池の負極(マイナス極)は何でしょうか。何とボルタ電池と同じ亜鉛金属です。外装缶が亜鉛でできており、缶とマイナス極が兼用されていることになります。

 乾電池は1800年代末期に日本で屋井先蔵が世界に先駆けて開発したとされており、この電池が日清戦争での勝利に大きく貢献したとの新聞記事もあります。

 1970~1980年にラジカセや携帯音楽プレーヤが普及し、電池でモータを駆動する用途が増えてきて乾電池にもパワーが求められる様になってきました。この頃から普及が始まったのがアルカリマンガン乾電池です。アルカリ電池と呼ばれることも多いですが、正・負極の材料自体は乾電池と同じです。電解液を弱酸性の塩化亜鉛からアルカリ性の水酸化カリウム(KOH)溶液に変更しています。電荷を運ぶ電解液中のイオン濃度が高くなりパワーが取り出せる様に工夫されています。外観には大きな変化はありませんが、液だけでなく、パワーが出る様に内部構造も大きな変更が加えられています。亜鉛は板ではなく反応面積を増やすため粒子が使われています。現在ではアルカリ乾電池が主流になっており、市中で普通の乾電池を見る機会が減ってきました。

 中学の理科で亜鉛は両性金属(元素)で、酸ともアルカリと反応して水素を発生しながら溶けるということを習います。高校の理科で実験されることもあります。使わなくても溶けてしまうと亜鉛がなくなってしまい電池として機能しなくなります。こういった反応を抑制するため、当初は水銀(Hg)をアマルガム化して使っていました。1990年になると水銀の代替品が開発され「水銀0(ゼロ)使用」の電池が登場し、現在に至っています。

 ゼロ使用というのは原材料も含めて製造工程で故意に添加していないということで、不純物として混入していたppmレベルの水銀は検出されるかもしれません。ノンアルコール飲料のAlc.0.00%の表示と似たところがあります。0.00%という表記は0.004%含まれている可能性があるということです。海外製の輸入品は0.0%という表記もあり、これは解釈的には0.04%含まれているかもしれないということになります。いずれの場合も、決して必ず含まれているということでもなく、そこまでは制御できないとか管理していないということを意味しています。

 また、多くの方が勘違いしているのは、電池の缶はマイナスだと思い込んでいることです。アルカリマンガン乾電池の外装缶はプラスです。角形のリチウムイオン電池の外装缶にアルミニウム合金を採用してプラス極にすることを提案した際に、「電池の缶はマイナスが常識だ。市場の混乱を招く。」と苦言を呈した上司(非技術系)もおりましたが、電池の会社に勤めている人ですらこんな調子ですから、世の中には電池の缶はマイナスだと思い込んでいる方は少なくないと思います。ところが一般的なアルカリ乾電池も、多くのボタン電池やコイン電池も外装缶はプラス極なのです。疑いをお持ちの方は使用済のアルカリ乾電池を処分する前に突起のあるプラス極の近くのラベルを少し剥がして見てください。外装缶になっていることが確認できると思います。

 参考のため、マンガン乾電池とアルカリマンガン乾電池の内部構造を簡単に比較した図を確認ください。細かなことは電池工業会や電池メーカのサイトでも確認ができますので、ご興味のある方は覗いてみてください。

 次回は電圧についてお話ししてみたいと思います。

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