容量と出力とエネルギー

 電池の場合は容量と言えば、(m)Ahで示されますが、電気料金等の算出のベースとなるのはWhでこれも容量と呼ばれています。電池パック等でも併記されることも多くなりましたが、一般的にはAhが使われ、Whはエネルギーとして扱われます。

 リチウムイオン電池はニッケル水素電池より高容量だと勘違いしている人が多いですが、同じサイズのセルの場合、容量(Ah)はNi-MHの方が大きく、電圧が約3倍あるLIBがエネルギー(Wh)で逆転します。

 最近の多くの機器ではWhがより重要となっています。前回説明した比容量は電圧の因子が含まれておらず、これだけでは判断できないということです。LIBと呼ばれる電池の中にも多くの種類があり、正極や負極の種類によって電圧が大きく異なるものもあり、LFP(リン酸鉄リチウム)正極を使ったものや、LTO(チタン酸リチウム)負極が採用された電池は電圧が2~3割低くなります。機器が使える最低電圧や必要な出力(電流)も注意が必要であり、電池の保有するエネルギーが使い切れない可能性も少なくありません。

 次は出力についてです。出力の単位はWです。交流ではVAという単位も使われますが、ここではWで統一します。電圧の変動が少ない場合は電流(A)でも高低を把握することはできます。出力は強さを表す示量因子で、エネルギーは量を表す示量因子となります。あまり使わないことばですが、平井先生の授業で出てきたことばで、現象を理解する上で判り易い表現であるので、今も時々使います。

 出力とエネルギーを混同して使われることが多いのですが、説明するのにいい例も見つかりません。家庭にある電気製品は出力で表現することは少なく、消費電力で表示されることが大半ですが、出力に効率(ロス)を考慮したものが消費電力と考えても大きな間違いはないと思います。

 出力もエネルギーも単位質量当たりとか単位体積当たりで数値を換算した出力密度とかエネルギー密度という表現もあります。ある意味公平に比較できる表現であり、同じ土俵で比較するには適していると思います。

 COVID-19の感染者数も日本では国や都道府県単位の絶対数で比較して騒ぐので、非常に違和感を覚えます。国内では人口の最も多い東京都と最も少ない鳥取では25倍程度の差があります。感染密度で考えると東京の250人は鳥取の10人に相当します。これで比較しても人口密度の高い東京の感染率は高くなっていますが、全体の順位は大きく入れ替わることもあります。当初より人口当たりで比較して分析している研究者もちゃんと居ますが、なぜか表舞台に取り上げられません。

 日本人は日本が小さな国だと教え込まれ錯覚してしまっておりますが、面積でも中の上に位置し、人口は10位前後で、フランスやイギリスの2倍前後になり、大きくはありませんが、決して小さな国ではありません。

 いずれにしても密度という考え方は決して万能でなく、実数値が重要な場合も少なくありませんが、公平な比較をする際には有効な手段です。

 電池を正しく理解するためには、出力とエネルギーの違いや比較の方法を知っておくことが重要であると思います。ことばはよく知っており、試験では満点を取れるような人でも、実際の場面では切り分けができないという人も少なくありません。

 強さと量は同じようで同じではないということと、密度について考え直してみる機会になればと思います。

 スポーツの世界では相撲は密度という考えは考慮せず、それが逆に面白さを呼ぶ所以でもあります。同じ格闘技でも柔道やレスリング等は体重別に分類されます。体重が強さに大きく影響を与えるという考えがベースになっています。一方で、身長が結果に大きく影響を与えると思われる高跳びでは身長別には分類されておりません。

 世の中には不思議なことや理不尽なこともあり、それはそれで仕方ありません。科学の分野では真実を追求して行くことが重要であり、研究者の楽しみでもあります。

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